Summary
音楽 大野 泰夫
潜在意識に残る映像感覚の生成 《TRIP》は、土佐尚子の初期ビデオアートにおいて、映像編集のリズムと身体感覚の関係を決定づけた重要な作品である。作品ページでは、本作のコンセプトは「人の潜在意識に残像として脳裏に焼き付くインパクトのある映像」を生み出し、日常の中で張り詰めた感覚を緩ませることにあったと説明されている。また土佐自身は、この作品で独自の映像編集のリズムを掴んだと述べている。 ここで重要なのは、《TRIP》が何かを物語る映像ではないという点である。 本作では、形態と色彩がメタモルフォーズし、変幻する画像が強い緊迫感を帯びる。映像は意味を説明するのではなく、観客の知覚と神経に直接作用する。つまり《TRIP》は、映像を「見る対象」としてではなく、意識状態を変化させる力として扱っている。 美術史的に見るなら、《TRIP》は1980年代の日本ビデオアートが、記録や物語から離れ、映像そのもののリズム、色彩、変形、速度によって観客の身体感覚に介入し始めた地点にある。1985年にはヴィデオギャラリーSCAN東京の「SCAN ’85 Autumn」、第2回インターナショナル・ビエンナーレ・ビデオCD’85、NICOGRAPH’85に出品され、1986年にはSIGGRAPH Animation Screening部門入賞、日本映像フェスティバル特別賞、1987年にはAmerican Film & Video Festivalビデオアート部門2位など、国内外で評価を受けている。 建畠晢向けに最も鋭く言えば、こうである。 《TRIP》は、映像で何かを表現した作品ではない。 映像のリズムによって、観客の内部に感覚が生成される条件をつくった作品である。 後年の《Sound of Ikebana》が、音によって流体を動かし、裸眼では見えない一瞬の形を立ち上げる作品だとすれば、《TRIP》はその前史として、編集、色彩、変形によって、観客の意識の中に残像と緊張、そして解放を発生させている。 つまり《TRIP》で生成されるのは、自然現象ではない。 観客の潜在意識に残る映像的な感覚そのものである。 この意味で《TRIP》は、土佐尚子の初期作品における「生成」の出発点の一つである。 それは映像を情報や物語から解放し、感覚を生み出す装置として用いた作品なのである。
Award
1985 | SCAN ’85 Autumn(ヴィデオギャラリーSCAN東京) |
2nd インターナショナル ビエンナーレ ビデオCD’85(ユーゴスラビア リュビャナ) | |
NICOGRAPH’85(池袋サンシャインシティカルチャーホール) | |
1986 | NCGA ’86 インディペンデントアーティスト部門3位(米国カリフォルニア州アナハイム |
SIGGRAPH ’86 Animation Screening 部門 入賞(米国テキサス州ダラス) | |
国際ハイ・テクノロジーアート展(池袋サンシャインシティカルチャーホール) | |
日本映像フェスティバル特別賞(東京) | |
1987 | アメリカンフィルム&ビデオフェスティバル ビデオアート部門2位(ニューヨーク) |
The 21st Annual New York Film, Video Exprosition入賞(ニューヨーク メトロポリタン美術館) | |
サンフランシスコ インターナショナルフィルムフェスティバル | |
“Golden Gate awards” 入賞(米国サンフランシスコ) | |
ビデオカルチャーカナダ ’87 入賞(カナダトロント) |
Collection
| 所蔵、常設館 |
| 作家蔵 O美術館 日本フィルムカルチャーセンター 富山県立近代美術館 名古屋市美術館 American Film Association N.Y. |
