About Artist

Artist Statement 

生成の原理 ー かたちが生まれる条件とシステム

私の作品において、テクノロジーは目的ではない。それは、まだ名を持たないものが、かたちとして現れるための条件である。近代以降の美術は、長く「何を表すか」という問いとともに歩んできた。自然を描くこと。身体を表すこと。感情を可視化すること。あるいは概念を提示すること。形式や媒体がどれほど変化しても、作品はしばしば、すでに存在する何かを世界の前に差し出すものとして理解されてきた。しかし、私が向き合ってきたのは、完成された像ではない。私が見つめているのは、像が像になる以前、意味が意味として定着する以前、世界がまだ震えとして、気配として、力として存在している領域である。

私は自然を再現したいのではない。日本文化の図像を引用したいのでもない。感情を説明したいのでもない。

私が探っているのは、森羅万象がどのように立ち上がるのかという、生成の原理である。声、音、呼吸、心拍、身体のわずかな揺らぎ。流体の振動、衝突、飛散、重力、偶然。これらは、私の作品において素材であると同時に、出来事を発生させる力である。そこでは、作家があらかじめ定めた形を世界に与えるのではなく、目に見えないエネルギーが、ある瞬間、かたちとして自己を開示する。

《Sound of Ikebana》において、花は描かれない。花は象徴として引用されるのでもない。音によって絵具が震え、跳ね、空中で一瞬だけ咲く。その瞬間、私たちは「花」を見ているのではなく、花が生まれる条件に立ち会っている。そこに現れるのは、花のイメージではなく、花的なるものが世界に出現する刹那である。

日本文化における「型」もまた、固定された様式ではない。型とは、生命や自然や時間の流れを受け止め、それをかたちへと導くための器である。生け花、能、琳派、禅、山水。それらは単なる図像や装飾ではなく、見えないものを見えるものへ、無形の力を有形の経験へと転化するための知であった。

私の実践は、その知を現代のテクノロジーによって再演するものではない。むしろ、テクノロジーを通して、型がふたたび生成の場として息づく瞬間を開こうとする試みである。その意味で、私にとって作品とは、完成された対象ではない。作品とは、現象が発生するための場であり、世界が一瞬だけ自らの生成を露わにする装置である。

私は作品をつくっているのではない。作品が生まれる場を設計している。

この点において、私の仕事はしばしば科学と接近する。しかし、科学が現象を説明し、予測し、制御しようとするならば、私の作品は現象を経験させ、不可解なものとしてふたたび開く。自然を理解可能な対象へと縮減するのではなく、自然が本来持っていた「畏怖の念」を回復すること。テクノロジーはここで、自然を支配する道具ではない。それは、人間が自然、身体、生命ともう一度出会い直すためのインターフェイスである。

私は、ビデオアート、インタラクティブアート、人工生命、カルチュラル・コンピューティングを横断しながら、映像を単なるスクリーン上の像から、身体と自然現象が交差する出来事へと移行させてきた。ナムジュン・パイク、E.A.T.、実験工房以降のメディア表現が切り拓いた問いを受け継ぎながら、私の関心は、メディアそのものではなく、メディアを通して世界がいかに発生するかへと向かっている。

したがって、私の作品は、アート、日本文化、テクノロジーの単なる融合ではない。それらを「生成の原理」という一点から再編成する試みである。作品は、もはや提示されるものではなく、発生するものとなる。美術は、世界を表象するものから、世界が生まれる瞬間に立ち会わせるものへと移行する。

私の制作は、その転回のただ中にある。まだかたちにならないもの。名づけられる以前のもの。人間の意図を超えて、自然と身体と時間が交差するところにだけ現れるもの。

その一瞬を、私は作品と呼んでいる。

土佐尚子 略歴

ニューヨークと京都を拠点に活動。1980年代初頭から美術家の中谷芙二子氏が開いたビデオギャラリーSCANで行われていたビデオアートの公募展に2度入選。ニューヨーク近代美術館(MoMA)のキュレーターのバーバラ・ロンドンが企画するMoMAでの「NEW VIDEO JAPAN」に出展。国際的なデビューを果たす。
森羅万象の「生成の原理」に着目し日本美を構造として再解釈する「カルチュラル・コンピューティング」を提唱し、音や身体、自然現象を通して、形が生まれる条件そのものを扱う実践を続けてきた。制作と研究を横断しながら、作品を「形」から「生成」へと移行させることをテーマとする。

1990年代より武蔵野美術大学で教育に関わり、同時にATR(国際電気通信基礎技術研究所)にてメディア情報統合およびコミュニケーション研究に従事。
1999年、東京大学にてAIによる感情音声対話の研究により工学博士号を取得。

2001年、文化庁芸術家在外派遣特別研究員としてマサチューセッツ工科大学(MIT)Center for Advanced Visual Studies(CAVS)でアート&テクノロジー研究を行い、2002年から2004年まで同センターでアーティスト・フェローとしてZENetic Computer作品制作。

2005年より京都大学にて教育と研究に携わり、現在は防災研究所において自然現象と人間の関係をめぐる表現を研究中。

初期にはビデオアートやインタラクティブアート、人工生命を扱いながら、音や身体、無意識の関係を探求してきました。1997年ロレアル大賞受賞、2004年《ZENetic Computer》がユネスコ関連評価を受けた。

2016年には文化庁文化交流使としてニューヨーク・タイムズスクエアにて《Sound of Ikebana》を発表し、都市空間における生成的映像表現の可能性を提示。

私の仕事は、ナムジュン・パイクやE.A.T.、そして実験工房以降の映像・メディア表現の系譜を引き継ぎながら、それを自然現象と生成の領域へと移動させる試みでもある。